人気ブログランキング | 話題のタグを見る

『ウォーターランド』・・・この一冊に何人もの人生が詰まっている。


『ウォーターランド』 グレアム・スウィフト(新潮クレスト・ブックス)
2008年5月25日読了


すんばらしい。この1冊の本の中には、何人もの人の人生が詰まっている。何人もの人の、生きる上での苦悩、人生における選択、葛藤、諦め、継続、青春、そういうものがずっしりと詰まっている。それだけではなくて、ミステリーとしての面白さえも併せ持っている。これはすごい。

話は、もう50うん歳を迎えることとなった歴史教師、トム・クリックが彼の生徒たちに語りかける形をとる。彼は、「子供たちよ(Children)、」と言い話し始める。彼の故郷の歴史を。彼の祖先の生きざまを。彼の父親の、母親の、兄の話を。それはそのまま、彼自身の人生を形作っているから。

私がいま、ここに、こうやって存在しているその前には、何人もの人の生きた人生があり、理由がある。私がいま、ここに、こうやって存在しているその周りには、何人もの人の生きている人生があり、行動があり、その理由がある。そのどれもが当り前ではなく、そのどれもが一つ一つ意味を持っているのだということ。そういうピースの破片のようなひとつひとつで、私が出来上がっているのだということ。ものすごく壮大で、なんだろう、ひとつひとつのちっぽけな事象が連なって宇宙まで続いていくようなそういう世界観が目の前に広がった。

歴史は、変わらない。しかし、歴史は、私をつくって来た。ある種の必然性を持って。未来は、変えられる。「いま、ここ」は一つではない。今この一瞬の私の選択が、無数の未来を創り得る。この小説はそういうことを教えてくれる。でも、違うそうじゃない。それだけではなくて、もっと繊細ではかない人の心の動きを、そういうものの大切さをも教えてくれる。ひどくマクロで、ひどくミクロな、そういう小説だ。

by yebypawkawoo | 2008-06-06 21:05 | ◆本のこと  

<< JOB HOPPING 『レザボア・ドッグス』・・・趣... >>