『約束の旅路』・・・ひとつの史実と、ひとつの人生。

『約束の旅路』 ラデュ・ミヘイレアニュ(2005)
2008年4月17日鑑賞

約束の旅路 デラックス版

この時ちょうど読んでいたスタンダール『赤と黒』の主人公ジュリヤンと、本作の主人公シュロモとが重なって見えた。そこに置かれた経緯は異なるものの、時代を生き抜くために自分を偽り、偽るために勉強に精を出し非常に能力が高く、置かれた時代背景を背負っている、そういうような部分が。

本作は、イスラエルが舞台であり、ユダヤ教が題材だ。したがって、この映画を見て第一に私が感じたことは、イスラエルやユダヤ教についての自分の浅識さ。ついこのあいだ『ホテルルワンダ』を見たときにも思ったことだが、私はなんて世界情勢について知らないのか、ということ。というよりも、こう言ったほうが適切かもしれない―NEWSレベルの知識を持っていても、それは本当に知っていることにはならない―。しかし、監督はインタビューで答えている。たとえば、イスラエルのことを語るとき、パレスチナ戦争という側面からしか語らない、知らない人がずいぶん多いが、それは間違っている。日本を第二次世界大戦からしか語らない、という人はいないでしょう?と。すなわち、この映画には、イスラエルやそれを取り巻く状況のことをもっと世界に知ってほしいと、そういう意図もこめられているのだろう。

もちろん、あらすじそれ自体は、そういった状況を背景にしつつも、もっと個人にフォーカスした物語をすすんでいく。生き抜くために、母親に難民キャンプから追い出される形で別人の人生を歩むことになった主人公の、苦悩と葛藤の人生を描き出している。幼いころに言われた母親の言葉を糧に、彼はずっと悩み続ける。「僕は何になればいいの?」と。母親を思うときに出てくる月が印象的。随所随所で出てくる月の映像が、彼がその一言をいつまでも引きずって、いや、大切にして生きていることを教えてくれる。やはり、幼いころの絶対である親の一言が、子の人生を決定付けることは往々にしてあるんだろう。その言葉の本当の意味を理解しようと、もがき苦しむのは、きっとどの時代であっても同じなのだろう。もがき苦しむ中で、自分なりの意味を発見していかなければならないのだろう。人生に正解はない。自分で意味づけし、見つけ出し、形作っていかなければならない。この映画は、そんな事をも考えさせ気づかせてくれる。

映画や文学は、人生の問題について扱うと同時に、その時代背景や社会が抱える問題についても教えてくれる。それは、NEWSや新聞で見聞きするより、ずっとリアルだ、私にとっては。もちろん、そこで学ぶことは問題のほんの一側面にしか過ぎないけれど、全体像を最初から把握するなんてことは難しい。多角的な視点のひとつを与えてくれる。そういう意味で、この映画は非常にすばらしいと思うし、見てよかったと、そう思った。
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by yebypawkawoo | 2008-04-17 11:33 | ◆映画のこと  

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